授業で紹介した本

授業で紹介した本をもう少し詳しく解説しておこう。
(授業の参考文献の紹介として書いたものの転載である)

・小平邦彦,幾何のおもしろさ,岩波書店,1985年

教科書として指定したのは同じ著者の「幾何への誘い」である。
「誘い」のほうは「はじめに」にもあるように,
小平先生が1988年に岩波市民セミナーでされた平面幾何学の講義ノートを加筆したもの。
ここで紹介する「おもしろさ」のほうはそれに先立つ85年に出版されている。

いずれも平面幾何学を扱っているが,
「誘い」のほうは「図形の科学としての平面幾何」を主として扱い,
「おもしろさ」は(完全にではないが)「数学としての平面幾何」を扱っている。

これらの違いについては「誘い」の18ページ,
176ページ〜185ページを参照のこと。

私のこの授業は「誘い」を案内書として使っているので,
「図形の科学として」ユークリッド幾何学を扱っている。
(ほんとは「おもしろさ」をテキストにしたかったのだが,
絶版となっていて使うことができなかった。残念)

で,授業中にも何度か触れているように,
数学に慣れたもの,あるいはものごとを慎重に眺める習慣のある人間
(これは小学生でも十分存在しうる)は,こういった話を聞いたとき,
いろいろわからないことが出てくる。
口では「厳密に扱う」といっていながら,
いろいろと疑ってみると,疑える,あるいは「明らか」と
思っていると思われることがたくさん見受けられるからだ。

歴史的にはまず「平行線の公理」が疑われ,
さまざまな「証明」が企てられたが,ことごとく失敗した。
そして最終的には「平行線の公理」を否定した「非ユークリッド幾何学」が誕生する。

一方,では本当に「厳密に」ユークリッド幾何学を構成するには,
どのような公理があれば必要十分なのか,という問題が生じるが,
それに対してヒルベルトは「幾何学基礎論」という本において,
研究している。

しかしこの本は専門家にとっても難解なものであろう。
原書はドイツ語だが,幸い(?)にして日本語訳がある。
興味のある人は眺めてみてほしい。
その一部分は「誘い」の第2章で触れられている。

・ヒルベルト,幾何学基礎論,ちくま学芸文庫,2005年

小平先生の「おもしろさ」は直線上の順序に関することは直感的に明らかと前提として,
それ以後の部分を厳密に展開してみせてくれる。
直線上の順序は微積分学で学習している「実数の連続性」と深い関わりがある。
実数の連続性については,それだけで1冊の本となるくらいの内容があるので,
そういった事情も含めて,「おもしろさ」では省略されている。
小平先生の「解析入門」という本に,実数の連続性について,
詳しい解説がある。

・小平邦彦,解析入門,岩波書店,1997年

数学的なかっちりした展開は,たとえば

・高木貞治,解析概論(改訂第3版),岩波書店,1983年

など,しばらく前の微積分の教科書では扱われている。
3年次に開講する私の「位相幾何学」の中でも僅かではあるが触れる。

「誘い」の書き方に飽き足りない人は,ぜひこの本に挑戦してみてほしい。

小平先生の専門は複素多様体論。
日本人で初めてフィールズ賞を受賞された。

ちなみに最初に触れた「岩波市民セミナー」はビデオも出ていた。
フィールズ賞研究者の肉声を聞いてみたい人は,
見てみるといいだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*
*
Website

*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)